テレビ北海道への勧告——フリーランス法、典型事例から学ぶ実務対応

2026年3月、公正取引委員会が株式会社テレビ北海道(HTB)に対してフリーランス法に基づく勧告を行いました。

勧告内容として最も典型的な違反パターンの一事例です。

放送局という知名度ある企業への勧告として大きく注目されました。現状このような放送局、新聞社、出版社その他の大企業が集中的に勧告対象となっていますが、問われた行為の内容は、多くの企業に身近な話です。

目次

何が問題だったのか

公取委のプレスリリースによると、テレビ北海道は2024年11月〜2025年7月にかけて、放送番組制作に関わるディレクター業務・動画・音声データ作成等を複数のフリーランス(特定受託事業者)に委託していました。

そこで問題とされたのは、次の2点です。端的に言えば、「条件を最初に書面やメール等で示さなかった」「支払期日を決めず、支払いが遅れた」 という点になります。

① 取引条件を書面等で明示しなかった(法第3条第1項違反)

明示義務が設けられた趣旨は、取引条件について発注者とフリーランスの間に共通認識を作り、事後のトラブルを未然に防ぐことにあります。

「口約束だったので認識が違った」「報酬額を後から下げられた」といったトラブルは、条件が書面やメール等で明示されていれば多くは防げます。発注する側にとっても、条件を最初に明確にしておくことはトラブル回避につながります。

② 支払期日を定めておらず、報酬を期日内に支払わなかった(法第4条第5項違反)

フリーランス法では、報酬の支払期日は給付受領後60日以内で定めることが義務付けられています。ただしこの60日はあくまで上限であり、できる限り短い期間内に支払うことが求められています

そして重要なのは、支払期日を定めなかった場合、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)が支払期日とみなされるという点です。

今回のテレビ北海道の事案では、支払期日を定めていなかったがゆえに「受領日=支払期日」となり、その日に支払えなかったことが違反と認定されています。

期日を決めていないことが「まだ払わなくてよい」ではなく、逆に即日払いを求められることになる——これが実務上の最大のポイントです。

「よくある慣行」が法律違反になる

テレビ北海道の事案を見て、「うちも同じかも…」と感じた方は少なくないのではないでしょうか。

番組制作・映像・広告・出版など、フリーランスに業務を依頼する業界では、以前から「口頭で依頼して後から条件を詰める」「支払いは作業終了後に都度交渉」「支払時期は業界慣行に従う」といった進め方が普通に行われてきました。

しかしフリーランス法のもとでは、こうした慣行は通用しません。

委託時点で直ちに、かつ書面または電磁的方法(メール等)で条件を明示する義務があります。「後で決める」「口頭で伝えた」は法律上の要件を満たしません。

勧告の内容——会社として何をしなければならないか

公取委からテレビ北海道に対して出された勧告は、以下を求めるものでした。

  • 取締役会の決議により、①②の行為が法律違反であること、および今後の遵守方針を確認すること
  • 違反期間後(2025年7月16日〜2026年3月16日)の取引についても自主的に調査し、問題があれば是正すること
  • 役員・従業員への研修を含む社内体制の整備を行うこと
  • 取引先のフリーランスに対し措置内容を通知すること
  • 措置の結果を速やかに公取委に報告すること

注目すべきは、「違反期間後の取引についても自ら調査するよう求めている」点です。勧告を受けた後も、受動的に改善すれば済む話ではなく、能動的な自己点検が求められています。

現時点での公取委の執行状況

私の認識では、公取委によるフリーランス法に基づく勧告事例は現時点でこのケースが典型となっています。

つまり問われている違反類型は今回と同様の「条件明示義務違反」「支払期日の不設定・遅延」のパターンです。

フリーランス法は施行から日も浅く、公取委も現在は啓発・是正に重点を置いている段階です。しかし施行から間もないにもかかわらず、既に多くの勧告が出されており、当局の本気度を感じます。

自社で最低限確認すべきこと

フリーランスや個人事業主に業務を依頼している企業・個人事業主が、まず確認すべきポイントは以下の3点です。

①委託時に条件を書面等で明示しているか

業務内容・報酬額・支払期日は、委託のたびに書面またはメール等で明示する必要があります。

発注書のテンプレートをまず整備することが現実的な対応です。

② 報酬の支払期日を定めているか

支払期日は「給付受領後60日以内」が法定の上限です。ただしできる限り短い期間内に支払うことが求められています。

また支払期日を定めていない場合、受領日が支払期日とみなされ、その日までに支払えなければ違反となります。

③対象は「大企業だけ」ではない

フリーランス法は、発注者側の規模を問いません。中小企業でも、個人事業主でも、フリーランスへの業務委託があれば適用対象となります。この点、よく似た義務を定める取適法(旧下請法)とは異なります。

まとめ

テレビ北海道他の企業への勧告は、フリーランス法違反の「典型例」として今後も繰り返し参照されることになるでしょう。問われた行為はシンプルですが、対応できていない企業は意外と多いはずです。

「うちはフリーランスに頼む機会は少ない」という企業も、動画制作・システム開発・翻訳・デザイン等でスポット的に外部の個人に依頼することはないでしょうか。

一度、自社の発注・支払プロセスを見直してみることをお勧めします。

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