「遺言書は書いたけど、引き出しに入れたままで大丈夫かな」
そんな不安を抱えたことはありませんか?
せっかく書いた遺言書でも、自宅に保管していると紛失・改ざん・隠匿のリスクがあります。また、亡くなった後に家族が発見できない、あるいは発見してもすぐに使えないという問題も起こりえます。
そのような問題を解消するために設けられたのが、「自筆証書遺言書保管制度」です。
令和2(2020)年7月10日からスタートし、令和8(2026)年3月2日には制度をさらに使いやすくする省令改正も施行されました。
今回は、この制度の基本的な内容と、今回の改正のポイントをご紹介します。

そもそも「自筆証書遺言」とは?
遺言書には、主に次の3種類があります。
- 自筆証書遺言:遺言者が全文・日付・氏名を自筆し、押印するもの
- 公正証書遺言:公証人が作成し、公証役場で保管されるもの
- 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま存在だけを証明してもらうもの
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば一人で作成できる手軽さが魅力です。ただし、自宅で保管していると次のような問題が生じます。
- 紛失・盗難・改ざんの恐れがある
- 遺族が発見できないことがある
- 発見後に家庭裁判所での「検認」手続きが必要になる
こうした弱点を補うために設けられたのが、法務局による保管制度です。
自筆証書遺言書保管制度の仕組みとメリット
この制度を使うと、自筆証書遺言の原本と画像データを法務局(遺言書保管所)が保管してくれます。
保管期間は、遺言者の死亡後、原本は50年間、画像データは150年間です。
主なメリット
① 紛失・改ざんの心配がない
法務局が原本と画像データを適正に管理するため、紛失・盗難・偽造・改ざんのリスクがありません。
② 家庭裁判所の検認が不要になる
通常、自筆証書遺言を使うためには亡くなった後に家庭裁判所での検認手続きが必要です。しかし、この制度を利用して保管された遺言書は、検認が不要となります。相続手続きがスムーズに進みます。
③ 全国どこの法務局でも閲覧・証明書の取得ができる
画像データで管理されているため、遺言書の原本を保管した法務局でなくても、全国どこの法務局でも遺言書の内容を確認することができます。
④ 相続人への通知がある
遺言者が亡くなった場合、相続人等のうち誰かが遺言書の閲覧や証明書の交付を受けると、他の相続人全員にも遺言書の存在が通知されます。また、あらかじめ希望しておけば、遺言者の死亡が確認された段階で指定した方(最大3名)へ通知が届く「死亡時通知(指定者通知)」の仕組みもあります。
保管申請の基本的な流れ
手続きの流れ
この制度を利用するには、次のような流れで手続きを行います。
代理人による申請や郵送申請はできません。遺言者本人が必ず法務局に出向く必要があります。
- 遺言書を作成する:法務省令の定める様式に従い、無封で作成
- 申請する法務局を決める:遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所
- 保管申請書を作成する
- 予約を取る:事前予約が必須
- 本人が法務局に出頭して申請する:遺言書、申請書と、住民票+本人確認書類+手数料3,900円
- 「保管証」を受け取る
なお、申請後に遺言者や受遺者等の氏名・住所が変わった場合は、速やかに変更の届出を行うことが重要です。届出を怠ると、相続開始後の手続きがスムーズに進まない場合があります。
事前チェックを活用すると当日がスムーズに
私自身が保管申請をした際、当日の窓口で約1時間ほど待つことになりました。書類の確認や手続きに一定の時間がかかるためです。
現在、保管申請の書類を事前にメールで送付しておくと、形式面のチェックを行ってもらえる試行的な取り組みが実施されています。事前チェックを済ませておくことで、当日の手続きがスムーズになります。
実施している遺言書保管所(法務局)の一覧はこちらからご確認ください。
なお、事前チェックはあくまで形式面の確認であり、遺言の内容に関する相談には応じてもらえません。また、事前チェック後も遺言者本人が法務局に出頭して原本を提出する必要があります。
令和8年3月2日施行:省令改正のポイント
「法務局における遺言書の保管等に関する省令の一部を改正する省令」が令和8年3月2日に施行されました。
この改正の主なポイントは、DV被害者等を保護するための「非表示措置」の創設です。
非表示措置とは?
遺言書保管制度を利用すると、遺言者の死亡後、相続人等が遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした際に、その遺言書に記載された情報が確認できます。
この情報の中に、受遺者(財産を遺贈で受け取る方)や遺言執行者等の住所・本籍が含まれるケースがあります。
たとえば、加害者(子)の親が遺言書を作成し、DV被害者である加害者の元妻を受遺者として指定しているような場合、加害者が相続人として証明書の交付を受けた際に、別居・避難中の被害者の現住所が明らかになってしまうおそれがあります。
今回の改正により、そのような被害を防ぐため、証明書や閲覧画面において特定の方の住所・本籍を「-」(ハイフン)で非表示にする措置が申し出られるようになりました。
申出は、全国どこの遺言書保管所でも手続き可能で、郵送による申出もできます。
非表示措置の申出ができる方
- 遺言書を保管している遺言者本人(生前)
- 遺言者が亡くなっている場合は、非表示措置の対象となる方またはその相続人
- 法定代理人(親権者・成年後見人等)による申出も可能
注意点
遺言書の原本と画像情報については、非表示措置やマスキング処理はできません。
非表示措置が反映されるのは、証明書や閲覧用のモニター画面のみです。そのため、遺言書の本文中に表示させたくない住所や本籍を書かないことが最善策です。すでに保管している遺言書にその情報が含まれている場合は、一度撤回して書き直すことが推奨されています。
制度を利用する際に気をつけたいこと
法務局は遺言の内容の審査・相談には応じてくれない
法務局が確認するのは、遺言書の形式面(全文の自書・日付・氏名の自書・押印の有無等)だけです。
遺言の内容が本当に希望どおり実現されるかどうかは、別の問題です。内容に問題があると、相続が開始してから「解釈でもめる」「一部が無効になる」といったトラブルが起きることもあります。
自筆証書遺言に向いている場合、向いていない場合がある
財産の規模が大きい場合、相続人同士の関係が複雑な場合、遺言者が高齢や病気で自書が難しい場合などは、公正証書遺言の方が適している場合があります。
まとめ
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の手軽さを保ちながら、紛失・改ざん・未発見というリスクを解消できる、非常に有用な制度です。
令和8年3月2日の省令改正により、DV被害者等の安全にも配慮した制度へと進化しました。
遺言書の作成・保管・内容についてのご相談は、司法書士にお気軽にお声がけください。
