「有効期限内だけ」は本当?景品表示法と確約手続について|ソシエ・ワールドの事例から考える

「割引クーポン:有効期限:2025年05月末日まで」

エステサロンの予約サイトでよく見かける、こんな表示。期限が近づくと「今のうちに予約しなければ」と急いだ経験がある方も多いのではないでしょうか。

しかし、その「期限」が実は形だけのものだったとしたら・・・?

令和8年(2026年)3月3日、消費者庁は株式会社ソシエ・ワールド(「エステティックサロン ソシエ」を運営)に対し、景品表示法に基づく確約計画の認定を行いました。

この事例は、広告・マーケティングに携わる企業にとって、他人事ではない重要な教訓を含んでいます。

今回のコラムでは、この事例をもとに「景品表示法とは何か」「確約手続とはどういう制度か」を解説し、企業として今後どのような点に注意すべきかを考えます。

目次

【事例】ソシエ・ワールドに何が起きたか

ソシエ・ワールドは、HOT PEPPER Beautyの各店舗ページ内「クーポンメニュー」において、次のような表示をしていました。

【表示例】 「ボディ人気No.1!! 【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分 ¥31,185 → ¥4,400」 「有効期限:2025年05月末日まで」

この表示を見た消費者は「期限内にクーポンを使って申し込まないと、この安い価格では受けられない」と理解するのが自然です。

しかし実態は、クーポンの期限が過ぎた後に申し込んでも、同額またはそれ以上の割引が適用されていました。つまり、「期限」は消費者に焦りを感じさせるための形式的なものにすぎなかったのです。

この行為は令和3年(2021年)9月23日から令和7年(2025年)5月28日まで、約4年近くにわたり継続していました。

そもそも景品表示法とは

景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者が自分の意思で合理的な商品・サービスの選択をできるよう保護することを目的とした法律です。

禁止される「不当表示」の種類

法律が禁止する不当表示は主に3種類あります。

  • 優良誤認表示(第5条第1号):商品・サービスの品質や内容が実際よりも著しく優良であるかのように見せる表示
  • 有利誤認表示(第5条第2号):価格や取引条件が実際よりも有利であるかのように消費者に誤認させる表示
  • その他誤認表示(第5条第3号):内閣総理大臣が指定する、消費者に誤認させるおそれのある表示

ソシエ・ワールドの事例では②の有利誤認表示が問題となりました。「有効期限内だけ割引」という表示が、実際には期限後でも同様の割引が適用されるにもかかわらず、消費者に「今だけお得」と誤認させていたからです。

違反した場合のペナルティ

景表法に違反した場合、次のような措置が取られる可能性があります。

  • 措置命令:違反行為の停止・再発防止の命令(消費者庁長官による公表を伴う)
  • 課徴金納付命令:違反期間中の売上額の3%相当額の納付命令

企業にとってはブランドイメージへの打撃も大きく、消費者からの信頼を失うリスクがあります。

確約手続とは――令和6年改正で導入された新しい制度

確約手続は、令和6年(2024年)の景品表示法改正により新たに導入された制度です。

従来は「措置命令」か「課徴金」という行政処分が主な対応手段でしたが、確約手続はその代替的な選択肢として設けられました。

なお、確約手続は平成30年(2018年)に独占禁止法に導入された制度ですが、その6年後に景品表示法にも導入されたものです。

確約手続の仕組み

手続の大まかな流れは以下のとおりです。

通知消費者庁が事業者に対し、違反の疑いがある行為の概要等を書面で通知
計画申請事業者が通知を受けた日から60日以内に「確約計画」を作成・申請
認定計画内容が十分・確実と認められれば、消費者庁が認定
効果認定後は、当該行為に対する措置命令・課徴金命令が適用されない

ソシエ・ワールドの確約計画の中身

今回、消費者庁が認定したソシエ・ワールドの確約計画には、次の措置が含まれていました。

  • 問題の行為を既に行っていないことを確認し、同様の行為を行わない旨を取締役会で決議する
  • 問題の行為の内容について一般消費者に周知徹底する
  • 再発防止のための各種措置を講じる
  • 対象クーポンを利用した消費者に対し、支払額の一部を返金する(Amazonギフトカードにて対応)
  • 措置の履行状況を消費者庁に報告する

2種類の確約手続(継続中・既往)

確約手続には、行為の状況によって2種類あります。

  • 是正措置計画(第26条・第27条):違反行為がまだ継続している場合に利用。行為の停止と影響の是正が求められる。
  • 影響是正措置計画(第30条・第31条):違反行為がすでに終了している場合に利用。ソシエ・ワールドの事例はこちらに該当。行為の影響(消費者への被害)の是正が中心となる。

なお、確約計画の認定は「違反を認定したものではない」という点も重要です。あくまでも自主的な是正の枠組みであり、これにより措置命令・課徴金の適用が免除されるインセンティブがあります。

企業として注意すべき点

今回の事例と確約手続を踏まえ、企業として実務上注意すべきポイントをまとめます。

① 「形式的な期限」に注意

「期限内限定」「先着〇名様」「本日限り」といった表示は、消費者の購買意欲を高める有効な手段です。

しかし、それが実態を反映していない場合、有利誤認表示に該当するリスクがあります。表示と実態の乖離がないか、定期的に広告・クーポンの内容を確認する仕組みが必要です。

② 表示管理体制の整備

消費者庁は「表示管理体制の整備」を強く推奨しています。具体的には、広告の事前チェック体制、担当者の教育・研修、外部委託先(代理店等)への管理の徹底などが挙げられます。

今回のソシエ・ワールドも、社内の広告管理体制の見直しを図ることで再発防止に努める旨の公表をしています。

③ 問題発覚時は早期の自主的対応を

確約手続の最大のメリットは、措置命令・課徴金という行政処分を回避しつつ、自主的に問題を解決できる点です。

消費者庁から通知を受けた場合は、60日以内に確約計画の認定を申請する必要があります。弁護士・司法書士等の専門家と速やかに連携し、適切な計画を策定することが重要です。

④ 「違反の認定ではない」の意味を正しく理解する

確約計画の認定は「景品表示法に違反したと認定したわけではない」ものです。

ただし、認定後に計画が履行されない場合や虚偽・不正があった場合は認定が取り消され、改めて措置命令・課徴金の対象となる可能性があります。計画の実施には誠実に取り組む必要があります。

まとめ

ソシエ・ワールドの事例は、「よくある広告表現」が景品表示法違反の疑いを生じさせるリスクを改めて示しています。

特にクーポンや期間限定表示は消費者の購買行動に大きな影響を与えるだけに、表示の正確性には細心の注意が必要です。

また、令和6年改正で導入された確約手続は、事業者にとって「問題を自主的に解決する機会」を与える制度です。行政処分を受けてから動くのではなく、日頃から適正な広告管理体制を整え、問題の予防と早期発見・早期対応を心がけることが企業にとって大切です。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別案件については専門家にご相談ください。

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