「銀行口座を開設しようとしたら、実質的支配者リストを提出してください、と言われた。でも、何をどう準備すればいいのか…」
「実質的支配者リスト」という言葉は難しそうに聞こえますが、仕組みそのものはそれほど複雑ではありません。
手数料無料で利用することができ、郵送による申出もできます。法務局ももっと使ってほしい、と考えているとかいないとか。
今回のコラムでは、この制度の概要、法務局の提供する「自動作成ツール」の活用法、そして実務上の注意点まで、まとめてご紹介します。

そもそも「実質的支配者」とは?
実質的支配者(英語ではBeneficial Owner、略してBO)とは、会社の支配権を一定割合以上、実質的に持っている自然人のことです。実質的支配者には上記①~④の者が該当します。

このうち、実質的支配者リスト制度が使えるのは下記①②の者のみ(上図カラー部分)である点にご留意ください。
① 議決権の50%超を直接または間接に持つ自然人
② ①に該当する人がいない場合、25%超を直接または間接に持つ自然人
「直接保有」とは、自分の名義で株式を持っている場合です。
「間接保有」はたとえば自分が50%超の議決権を持つ別会社(支配法人)を通じて、その会社が目的の株式会社の株を持っている場合が該当します。

なぜこの制度が作られたのか
背景にあるのは、国際社会からのマネーロンダリング対策の要請です。
FATF(金融活動作業部会)という国際機関が、各国に対して「法人を資金洗浄や犯罪に悪用させないために、法人の実質的な支配者を把握せよ」と勧告してきたことが発端です。
日本でも会社設立時に公証人が実質的支配者の申告を求める取り組みが先行していましたが、設立後の継続的な把握が課題でした。
そこで令和4年(2022年)1月31日から、商業登記所(法務局)が実質的支配者の情報を保管し、認証文付きの写しを発行する「実質的支配者リスト制度」の運用が始まりました。
この制度を使えるのはどの法人?
利用できるのは株式会社(特例有限会社を含む)に限られます。
合同会社・合名会社・合資会社、一般社団法人・一般財団法人などは対象外です。持分会社や非営利法人の方は、残念ながらこの制度は使えません。
手続きの流れ
手続きは次のような流れになります。
① 実質的支配者情報一覧(氏名・住所・生年月日や議決権割合等を記載)を作成する
② 申出書を作成する
③ 添付書類を準備する 必須の書類は次の通りです。
- 株主名簿の写し(申出日時点のもの)
- 理由書(株主名簿と実質的支配者情報の内容が合致しない場合)
その他、必要に応じて本人確認書面等が必要となります。
④ 管轄の法務局に上記書類を提出する 申出会社の本店所在地を管轄する法務局が窓口です。郵送での申出も可能です。費用(手数料)は無料です。
⑤ 法務局から認証文付きの写しが交付される
なお、令和7年(2025年)3月21日からは、登記申請と同時に行う場合に限り、オンラインによる申出も可能になりました(単独でのオンライン申出は現在もできません)。
自動作成ツールは使える? 注意点も合わせて確認を
実質的支配者リストの作成を支援するツールが法務局のウェブサイトで提供されています。
エクセル形式で、入力シートへの記入で必要な書類が作成可能、というツールになります。
ただし、ツールを使う際はいくつかの点に注意が必要です。
注意点① 実質的支配者が「誰か」は自社で確認する必要がある
法務局は、実質的支配者が誰かを把握していません。申出前に、会社側が自ら「誰が実質的支配者に該当するか」を確認したうえで、リストを作成する必要があります。これはツールに任せられない部分です。
注意点② 「申出日前1か月以内」の情報で作成
古い株主名簿をもとに作成したリストは受け付けられません。申出のタイミングに合わせた最新情報の確認が必要です。
注意点③ 株主名簿と内容が合致しない場合は理由書が必要
株式の名義と実質的支配者が一致しないケース(たとえば名義株など)は、代表者作成の理由書を添付する必要があります。
注意点④ 金融機関から求められたら、最新のリストを再申出する
以前に取得した写しでは内容が古くなっている場合があります。株主構成や代表者が変わったときには、改めて申出をし直す必要があります。
注意点⑤ 合同会社・合資会社などは対象外
前述のとおり、株式会社(特例有限会社含む)のみが対象です。
いつ使う場面が来る?
主な利用場面は以下のとおりです。
- 金融機関での新規法人口座の開設
- 銀行や信用金庫からの融資を受ける場面
- その他、金融機関との取引における本人確認手続
近年、金融機関による実質的支配者の確認が厳格化しています。
従来は自社作成の株主名簿や法人税申告書別表2などで対応していましたが、これらはあくまで自社作成の資料です。実質的支配者リストの写しは法務局(登記官)の認証文付きという点で信頼性が高く、今後は金融機関から指定して求められるケースも増えていくのではないでしょうか。
会社設立のタイミングや、取引開始前に準備しておくのがスムーズです。
まとめ
実質的支配者リスト制度は、任意の制度ですが、金融機関との取引において必要となるケースが増えていくと考えられます。
「自社では誰が実質的支配者になるのか?」「書類の準備の方法がわからない」といった場合は、ぜひご相談ください。
