契約書のチェックを外部の法律専門家に依頼することは、法務部門を持たない中小企業やスタートアップを中心に広く行われています。
しかし「専門家に出しているから大丈夫」という安心感が、思わぬリスクを招くことがあります。
法務の専門部署や人員がいない・不足しているからこそ、「誰に頼むか」が非常に重要になります。専門家であれば誰でも同じ、というわけではないのです。
こんなことが実際に起きています
取引先から契約書の修正案が届き、外部専門家にレビューを依頼しました。
しかし当初のドラフト内容から重要な変更が加えられていたにもかかわらず見逃され、気づいたときには交渉の機会を逃していた、ということがありました。
また別のケースでは、新しいビジネススキーム全体に関わる契約について相談したところ、個別の条項についての回答はあったものの、契約の基本性格や当事者間の役割・責任関係の整理といった上流の提案はなく、担当者が混乱したまま、案件も進められなくなってしまいました。
これらは特殊な事例ではなく、実際に起こっていることです。
「聞かれたことに答える」専門家と「必要なことを提案する」専門家の違い
外部法務の専門家には大きく二つのタイプがあります。
一つ目は、依頼された内容に対してのみ回答するタイプ。もう一つは、依頼内容の背景にあるビジネス全体を見て、必要な論点を自ら提案するタイプです。
前者が悪いわけではありませんが、法務の専門知識を持たない担当者が「何を聞くべきか」を正確に把握した上で依頼するのは、実際には非常に難しい。
だからこそ、専門家側から「この点も検討が必要です」と提案できるかどうかが重要になります。
外部法務を選ぶときに見るべきポイント
では何を基準に選べばよいのでしょうか?
①全体スキームを見た上で個別論点に答えてくれるか
担当者が個別の条項について質問している場合でも、その背景には「全体の契約関係・権利義務・責任関係を整理したい」というニーズが隠れていることが多くあります。
個別の回答の前にまず全体スキームを整理・提案できるかどうかが、実務では決定的に重要です。個別の論点はすべて全体構造に紐づくため、全体を整理しないまま個別に答え続けても、担当者の本当の疑問は解消されません。
また、修正履歴の確認は地味な作業に見えますが、さりげない変更の中に自社に不利な内容が紛れ込んでいることがあります。変更点の意味を文脈で読み取り、適切に指摘してくれるかどうかも重要な判断基準です。
②「問題あり」または「問題なし」で話が終わっていないか
「問題ありません」という回答は、なぜ問題がないのかの説明がなければ、見ていないのと紙一重です。
一方で「この内容では結べません」という回答も、それだけでは担当者は途方に暮れるだけです。なぜ問題なのか、どうすれば前に進めるのか。多少自社が譲歩してでもまとめたい、という場面で一緒に打開策を考えてくれるかどうかが重要です。
また、「過去もそうだったからそれでいいです」で終わるのは、専門家としての判断を放棄しているといえます。過去事例や他の専門家の見解を参考にすること自体は問題ありません。しかしそれを踏まえた上で自分の見解を示すのが専門家の役割です。
結論だけでなく、「なぜ」と「どうする」がセットで返ってくる専門家かどうかを見極めてください。
③相手方の属性を踏まえた現実的な提案と、リスクの説明ができるか
法的に正しい条項であっても、相手方の属性や立場、取引関係によって主張が受け入れられるか否かは大きく異なります。専門家としてまず必要なのは、相手方の属性を踏まえた上で対案を検討し提案できることです。
どうしても先方に受け入れられないような場合には、相手方がウェブ上で公表しているプライバシーポリシーや各種コンプライアンス方針といった情報を活用して代替手段を探るといった柔軟な発想も求められます。
そして最終的にどうしても変えられない部分が残る場合には、そのリスクを洗い出してわかりやすく説明し、受け入れるかどうかを依頼者が判断できる状態を作ることが専門家の役割です。判断するのは依頼者ですが、判断できる状態を作るのが専門家の仕事です。
④新法・改正法への対応ができるか
契約実務は法改正と切り離せません。フリーランス法や取適法(旧下請法)など、実際の契約現場に直結する法律の施行・改正に明るいかどうかは、専門家を選ぶ上で重要な判断基準です。
例えば昨今増えているインフルエンサーとの直接契約は、フリーランス法の適用場面であることを認識した上で対応する必要があります。「とりあえず従来通り」では対応できない場面が確実に増えています。
個人情報保護法についても、3年ごとの見直しがなされており、契約内容の対応だけでなく、自社のプライバシーポリシーが現状の事業内容や運用実態に合っているかどうかの定期的な見直しも必要です。契約実務と自社ポリシーの整合性という観点でもその専門家がアドバイスできるかどうか、の確認も求められます。
⑤適切なスピードで回答してくれるか
契約を検討している間も、実務は日々進んでいます。いくら質の高い回答でも、タイミングを逃しては意味がありません。
案件の性質にもよりますが、遅くとも1週間程度を目安に回答がもらえるかどうかは、専門家を選ぶ上で重要な確認事項です。
回答が遅すぎると、相手方との交渉機会を逃したり、社内の意思決定が止まったりするリスクがあります。依頼前に対応スピードの目安を確認しておくことをおすすめします。
まとめ:専門家選びも、経営判断のひとつ
外部法務への依頼は、コストをかけてリスクを管理するための投資です。しかし専門家の質によって、その投資が機能するかどうかは大きく変わります。
そもそも依頼側は法務のリソースが不足しているからこそ、説明と提案がセットでできる専門家に依頼できるかどうかが重要になります。
契約書を「見て」終わり、ではなく、ビジネス全体を理解した上で「なぜ」と「どうする」まで一緒に考えてくれる専門家を選ぶこと。それ自体が、会社を守るための重要な経営判断です。
契約周りのリスク管理や外部法務の活用についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。


