社長の住所がついに非公開に?法律の改正案と諸団体からの意見

会社の代表者は個人の住所が商業登記簿で公開されていますが、「希望すれば住所を一部非公開とする」旨の法改正案が出ています。以前も同様の話がありましたが再浮上した形です。

現在、改正案に対する意見公募(パブリックコメント)が終了したところで、諸団体がそれぞれの立場で意見を述べています。

法人代表者としては気になるテーマなので、①現状と問題点②改正案③提出されている意見のうち主要なものについてまとめました。

この改正案は「株式会社」が対象なんですよね…。私たち合同会社はそもそも対象外で残念ですが、その点について突っ込んでいる意見もありました。

(20240422追記)

今年10月1日から施行されることになりました。改正内容は下記法務省WEBサイトのとおりです。

パブリックコメントで指摘のあった非公開による「デメリット」(金融機関融資、不動産取引時の支障等)についても下記の法務省WEBサイトで言及されています。

また、住所非公開としても、住所が変わったら変更登記申請は必要(登記義務は残るから)という点は要注意ですね…。

結局、下記の各意見の内容が採用されているのは「施行日」(改正案にあった6月3日施行では早すぎる⇒10月1日施行に)だけのようです。

また一部手続の詳細については、後日通達で明確にされる予定とのことです。

パブリックコメントの結果はこちらです。

目次

現状と問題点

現状

前述の通り、会社代表者(社長)の住所は登記簿で公開されています。

例外として、DV被害者等である会社代表者等からの申出があれば、DV被害者等の住所を非表示とすることが可能となっています。(2022年9月1日から)

問題点

言うまでもなく、プライバシー侵害のおそれがあります。

具体的には下記影響が考えられます。(「経営法友会」の意見から引用しました。)

① 企業に反感をもつ者によって、代表取締役等や支配人の住所情報が SNS 等で拡散される

② 記者によって、代表取締役等や支配人の自宅やその周辺で執拗な訪問・取材を受ける

③ 郵便物が一方的に送付されたり、郵便物を盗難されたり、代表取締役等や支配人の自宅やその周辺でビラ配りや街宣活動をされたりするなどの嫌がらせ行為を受ける

④ 代表取締役等や支配人自らおよび同居の家族が、自宅住所が公表されていることにより恐怖心を感じる

なぜ社長の住所が登記簿で公開されているのか

法人は解散・清算してしまえば消滅する存在であり、また法人の実態がない場合もあります。

そういった場合に最終的に法人の責任を追及する手段(連絡先)として、代表取締役の住所を公開しているようです。

例えば悪徳業者からの消費者保護、といった場面を想定すると、登記された社長の住所は責任追及の際に唯一の手掛かりとなり得ます。

法律改正案の概要

こちらに記載されている改正案の概要は下記のとおりです。

「一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役及び代表清算人の住所を登記事項証明書及び登記事項要約書において一部表示しないこととする措置を講ずることができることとする改正を行う。」

気になる「一定の要件の下」がばっさり端折られているので補足しますと、下記の通りです。

株式会社の代表取締役等は、設立や本店移転、代表取締役等の本店移転等の登記申請の際に、住所について行政区画のみを記載するよう申出が可能。

申出の際には所定の書面を添付しなければならない。

①非上場会社:法人の実在性を証明する書面、代表取締役の氏名と住所が記載された公的証明、実質的支配者(犯罪収益移転防止法)の本人特定事項を証する書面

②上場会社:上場していることがわかる書面でOK。

そのうえで登記官が当該申出を適当と認めたときは住所非表示措置を行う。

その他既に申出をしている人に関する措置や措置終了などについての規定あり。

令和6年(2024年)6月3日から施行予定。

改正案に対する関係諸団体からの意見

この改正案に対し、関係する諸団体から意見が寄せられています。(意見公募期間は終了)

経団連新経済連盟日弁連日本司法書士会連合会東京司法書士会経営法友会の意見から、気になったものをまとめてみました。

他にも意見を出している団体はありますが、この辺りが主要なところかなと思います。

対象者の範囲:広げるべきである

改正案の対象となっていない下記にも範囲を広げるべきである。

株式会社以外の法人形態

支配人

過去の代表者や支配人

申出のタイミング:登記申請時点以外も認めてほしい

登記申請時とは別に、住所非表示措置のみでの申出を認めるべきである。

「登記官の判断により(非表示とする)」に関して:具体化してほしい/そもそも不要

住所非表示措置の申出を行った場合、登記官が「当該申出が適当と認めるとき」の内容を具体化すべきである。あるいは登記官の判断によらず、必要な書類の提出があれば一律認められるべきである。

必要な時に住所を開示・証明する仕組みの新設要請

資格者や利害関係人の請求により住所入り登記事項証明書交付や住所確認ができる仕組みの新設をすべきである。

非表示期間の継続や終了について:期間制限や第三者からの申出による終了の余地など

・非表示期間の期間制限を設けるべきである(現在の改正案では期限なし)

・重任の際に従前の住所と異なる住所で申請した場合、変更後の住所が表示されないように周知するべきである。

・代表取締役等住所非表示措置を講じた株式会社の本店がその所在地において実在すると認められないときは、第三者からの申出によって措置を終了させることができる旨の規定を設けるべきである。

その他

・所要の書面・手続に関する内容や手続の具体化を要請

・2024年6月3日から施行というのは周知期間を考えると早すぎるのではないか?との指摘

雑感

改正案の大筋に反対する意見は見当たらなかったので近い将来(予定では2024年6月3日)、現在の改正案をベースに施行されるのだと思います。

このスケジュールですと3月決算、6月に総会を迎える上場会社がこぞってこの登記をすることになりそうですが、上場会社は上場の事実を証明すればよいのでハードルは高くなさそうです。そもそもその証明、必要?という感じもしますが。

そして株式会社だけではなくそれ以外の会社形態や法人にも認めてほしいですね。

非上場会社の申出時の添付書類案を見るとその会社の実態に着目していることは明らかですが、株式会社だから問題がない、とは必ずしもいえないでしょう。

株式会社以外の法人については、原則どおり代表者の住所の公示を維持すべきである、という某団体からの意見もありましたね・・・。実際、新設の株式会社よりも歴史ある有限会社の方がまっとうなことも多いですよね。

書類で一定の担保をしようとするのであれば、他の会社や法人にもこの制度の利用が認められてしかるべきと考えます。

株式会社以外は一律住所開示、ではなく、どの法人形態であっても、問題が生じたときは必要な手続を踏めば法務局から住所を開示してもらえるようにすれば足りるのではないでしょうか。

また他の登記申請のついでにしか申出ができないのもいま一つですね。

株式会社だと最長10年任期でその間は登記申請の機会なし、ということもありますし、そもそも合同会社には任期がないので、会社や自分の引っ越しでもしない限り申出機会がないということになってしまいます。 合同会社にはそもそも認められるかどうかわかりませんが…。

あと、証明書類や登記官の判断についてはその内容を明確にしてほしいですが、これは今後の実務で補完されていくのかもしれません。

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