先日、日本経済新聞に「eシール」なるものについての記事が出ていました。
要約すると下記のような内容でした。
「eシール」は社印や組織印の電子版に相当。 「電子署名」などと並ぶ代表的なデジタル上の安全認証サービスである。
信頼性の裏付けに課題があり普及していなかったが、国認定の制度を創設、24年度内に運用を始める。
やり取りされる電子データは増えており、国認定のeシール運用開始で安全性を高める。
そもそも「eシール」とは何なのか?電子署名とはどう違うの?についてまとめてみました。
「eシール」とは何か
「電子署名」との違い
記事によれば、「eシール」=「電子文書の発行元を示し、内容が改ざんされていないことを証明する仕組み」ということですが、「電子署名」がそれなのでは?という疑問がまず出てきます。
結論からいうと「電子署名」は発行した「個人」の意思表示、そしてこの「eシール」は発行元の「組織」の証明という違いがあるようです。
「eシール」の働きは「角印」と同じ
すなわち、「eシール」は電子文書の発行元が組織である場合に、その組織が発行したことを証明する仕組み、となります。
もっと簡単に言うと、従来の「角印」の代わり、ということになります。
角印はこういう印鑑のことですね。社印などとも呼ばれます。
ここで重要なのはハンコの形ではなく、「ハンコに彫られた内容」です。
角印に彫られているのは会社名や屋号といった「組織名」になります。代表取締役**といった個人を示す内容ではありません。
つまり、この角印を文書に押印する意味は、確かにその「組織」が発行したことの証明、ということになります。
この角印押印を電子的に行うのが「eシール」である、と考えればわかりやすいと思います。いわば電子角印ですね。
その他、電子署名は電子署名法という法律の根拠がありますが、「eシール」はEU由来であり日本にはまだ根拠法がない、という違いもあるようです。
ちなみに、似た概念で「タイムスタンプ」というのがありますが、「タイムスタンプ」はある時点でその文書が存在していたことの証明手段になります。
「eシール」にもこのタイムスタンプ的要素が必要と思いますが、ここではこれ以上踏み込みません。
「eシール」の用途
冒頭の日経記事によれば、「総務省が利用を想定するのは、企業の国への申請書類、財務諸表などの監査関係書類、「弁護士」といった士業の資格証明書などだ。」とのことです。
前述のとおり、「eシール」は「組織が発行する書類(角印が押されるべき書類)」に使われる、という前提知識があると、このくだりも理解しやすいと思います。
なお、総務省が示す下記の図の赤い部分にある書類が「発出元証明による信頼性担保の必要性」が高く、このeシールが使われることが想定されている、ということのようです。
ちょっと脱線しますが、確かに資格試験の合格証明書は国家資格でも「こんな簡単でいいの?」という体裁ですよね・・・。
私がもらったのは司法書士の証明書になりますが、白い紙に角印が一つ押されている書類でした。立派な体裁にしてもらう必要はないものの、偽造しようと思えばできてしまいます。
士業はたまにニセモノが現れるので、今後はぜひ「eシール」を活用していただきたいですね。
「eシール」の仕組みと総務省がやろうとしていること
「eシール」の仕組み
以上を踏まえて「eシール」の仕組みを見てみましょう。
ざっくりいえば下記の流れになります。
1 「eシール」利用組織が「eシール」用証明書発行事業者に発行の仕組みを依頼
2 「eシール」利用組織が文書に「eシール」付与
3 文書を受け取った相手が「eシール」の真偽を検証できるようにしておく
物理的な角印の場合ははんこやさんに発注して押印するだけですが、「eシール」の場合はさらに「真正かどうかの確認の仕組み」があります。
角印の場合、そもそも「それが本当に正しいのかどうか」を照合する仕組みはありません。
「eシール」の場合は「eシール」用証明書発行事業者が管理するリストとの照合で、真偽判定が可能になります。
よく考えると物理的な角印は誰でも作れてしまうので、割と危うい代物ですね。登録が不要な印鑑全般に言えることではありますが。
総務省がやろうとしていること
冒頭の日経記事では「新制度では総務相が電子証明書を発行する事業者を技術・運用面で問題ないかをチェックして認定する。」とあります。
「eシール」用証明書発行事業者自体が怪しいと「eシール」自体の信頼性がなくなってしまうので、国がお墨付きを与えます、ということのようです。
そしてそれが今年度(2024年度)にスタートする予定、というのが記事の内容でした。
想定される影響
これまでどおり角印じゃだめなの?という無邪気なことは言っていられなくなりそうです。
特に現在は電子帳簿保存法やインボイス制度により、領収書などの税務申告のベースになる証憑類の電子化が求められている点は無視できません。
その電子文書が正しい作成者により作成されているのか、その確認は可能か、という点はこれまで以上に重要になってくるでしょう。
このことから、今後「eシール」が普及した場合には、税務当局や取引先の要請によって、事業規模にかかわらず「eシール」対応の手間、コストがかかることが想定されます。
一方で、当社のように一人法人の場合、電子署名とeシールは実質的に同一ともいえるので、そのあたりを考慮した仕組みもほしいところですね・・・。