会社設立登記も税務署への届出も一括申請可能!「法人設立ワンストップサービス」を実際に利用してみた

「法人設立ワンストップサービス」はデジタル庁が運営するオンラインサービスです。

会社を設立すると法務局、税務署、市区町村、社会保険事務所などにそれぞれ届出が必要になりますが、これらをまとめて一本で申請できるサービスとのこと。

出典:国税庁ホームページ

合同会社(役員一人、従業員なし)をこのサービスを使って設立してみました。

結論から言うとこんな感じの使用感でした。注:2023年1月現在

  • 登記申請と税務署、市町村への届出はできた
  • 設問や入力内容が結構ややこしく注意や別途調査を要する(お役所あるある)
  • あくまで申請ツールということらしく、定款などの必要書類は別途準備する必要がある
  • 社会保険関係はこのサイトでは完結できず、結局紙で申請した

「STEP1 かんたん問診」「STEP2 申請・届出を行う手続を選択」「STEP3 マイナンバーカードで申請者を確認」「STEP4 申請・届出」「STEP5 申請状況の確認」の5ステップで手続完了、とのことですので、それぞれのステップごとにどのような感じだったか、記載していきたいと思います。

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目次

「法人設立ワンストップサービス」利用の流れ

さて、サイトを開くと、下記のようなフローが出てきます。(出典:「法人設立ワンストップサービス」ウェブサイト)

何となく簡単にできそうな雰囲気です。

マイナンバーカード(+ICカードリーダー)も必要であることがわかります。

(↓↓実際に使っているICカードリーダーです。)

早速、上記フローに沿って使ってみました。

STEP1 かんたん問診

問診の設問が「かんたん」ではない

「質問に答えることで必要な手続がリストアップされます。」とのこと。

サイト上部の「かんたん問診・申請」のバナーから早速やってみます。

その結果、最初に出てくる質問が

「Q 設立登記と同時に商業登記電子証明書の発行申請を行いますか?」でした。

これは・・・いきなりハードル高くないですか??

「商業登記電子証明書は、国・地方公共団体等に対する多くのオンラインによる申請・届出の手続において、利用することができます。」との説明はあるものの、多くの人にとっては「??」なのではないでしょうか。

私は必要なときに改めて申請すればいいや、と思って「いいえ」としました。

結果としてそれで全く問題なかったです。

定款などは別途自分で作成する必要あり

そのあとの質問が「Q 定款は作成済みですか?」でした。

え、ここで作成してくれるんじゃないのか~~

こちらのサイトは「申請はできるが、必要書類は別途自分で作らなければならない」スタイルのようです。

仕方がないので私は別途 弥生会計の設立サポートサービスで必要書類を作成しました。

一般的な合同会社の場合は「定款」「代表社員、本店所在地及び資本金決定書」「就任承諾書」「資本金領収書」が必要。設立サポートサービスに必要事項を入力すれば自動的にできます。

さて、かんたん問診の選択肢は「はい」、「いいえ」、「わからない」

「Q 定款は作成済みですか?」に「わからない」と回答すると、「定款を作成して下さい」とのお返事。なかなかの塩対応です

結局わからなければ自分で調べながら進める必要があります。

税務関連の設問は妙に充実している

そして徐々に税務関連の質問になりますが、こちらのパートはこれまでの設問に比べ、やたら説明が充実しています

例えば・・・

「Q 法定の帳簿または法定の書類を備付け、日々の取引を正確に記録し、それらを保存することを条件に、青色申告の承認を受けた場合は、以下のような課税特典が受けることができます。
(例)
・欠損金の繰越控除
・欠損金の繰り戻し還付
・特別償却と特別控除
・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
・その他 課税の特例
課税特典を受けるために青色申告の承認申請の届け出を行いますか?」

・・・こんな感じの設問が続きます。

なかなかの文字数を読みこなし、「はい」「いいえ」(「わからない」は塩対応されるだけなので選ばない)でなんとか回答。

やっと問診結果が出て、次のSTEPへ。

STEP2 申請・届出を行う手続を選択

「かんたん問診」の結果、私の場合は下記の申請が必要、とのことでした。

「かんたん」ではなかったとはいえ、「結局何をすればいいのさ」となりがちな役所の手続の中から自分に必要なものを提示してくれるのはありがたいです。

[法務局]設立登記の申請※合名・合資・合同会社用及び株式会社の定款認証同時申請以外用
[税務署]法人設立届出
[税務署]給与支払事務所等の開設等届出
[税務署]青色申告の承認申請
[税務署]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
[税務署]電子申告・納税等開始(変更等)届出(税理士代理提出・法人開始用)
[地方公共団体]法人設立・設置届(都道府県)
[地方公共団体]法人設立・設置届(市町村)
[地方公共団体]事業所等新設・廃止申告
[年金事務所]健康保険・厚生年金保険新規適用届(2022年10月以降手続き)
[デジタル庁]GビズIDプライムアカウント発行申請リスト

これだけの手続をオンライン一本でやってくれるというのですから、本来は便利な手続のはずです・・・がここに至るまでもあまりかんたんではなかった

不要なものがもしあればチェックボックスのチェックを外すこともできますが、ここはそのまま進めました。「申請する」をクリックして次に進みます。

デジタル庁で推進している「GビズID」というのもさりげなく入っています。あまり聞きなれないかもしれませんが、結果として設立後の電子申請で使うと便利なので申請しておきましょう。

STEP3 マイナンバーカードで申請者を確認

このSTEP3は、「利用規約を承認→マイナンバーカードで認証→ワンタイムパスワード発行→次のSTEP4へ」という流れでした。

本人認証のため、マイナンバーカードとICカードリーダ(↓のような機器)が必要になります。

スマホサイト(ICカードリーダ不要)でもマイナンバーカード読み取りは可能らしいのですが、この後の「STEP4」での入力項目の多さからして、スマホでこれ以上手続を続けるのは厳しいと思われます。

STEP4 申請・届出

必要事項を入力して電子署名、申請するSTEPなのですが、なかなか突っ込みどころが多いです。

入力欄が異常に多い

いかにも簡単そうに見えるSTEPですが、入力欄をよく見ると「1/31」という数字が出てきます。これ、全31ページある入力ページの最初のページということですね・・・。

そこからはひたすら入力、入力です。商号、本店など設問に沿って会社の概要(参考:下記記事)を入力していきます。

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一応各々の入力内容の解説もありますが、よく読んで入力しないと間違うトラップもあって油断なりません。(例えば社名を入力する際、「合同会社」を付けるとか付けないとかが設問によって違う、など)

入力が不要な内容まで入力欄として出てきていました。体感的にですが半分ぐらいは入力不要でした。

入力不要欄も多く、結局31ページといっても当初思ったほどの労力ではなかったのですが、STEP2の段階で必要な手続きを絞っているので、入力が必要な欄だけ出してほしいものです。

定款などの必要書類には電子署名が必要

まず前述のとおり、定款などの必要書類(「定款」「代表社員、本店所在地及び資本金決定書」「就任承諾書」「資本金領収書」)はこの「法人設立ワンストップサービス」では作成できない、という点がすでにトラップなのですが。

別途作成した定款などの書類にはハンコに代わる電子署名が必要で、そこで一苦労ありました。

詳しい電子署名方法は必要書類を作成した弥生会計の設立サポートサービスの中にマニュアルがありました。

それによれば、

  • Adobe Acrobatを準備(Readerではなく有償のもの、但し無料体験版で用は足りるとのこと)
  • 法務省から専用プラグインをダウンロード
  • それぞれ所定の設定をしてマイナンバーカードで署名する

ということだったのですが、実際のAcrobatの設定画面がなんだかマニュアルと違う。

理由はAcrobatのバージョン?違いでした。

現在普通にAcrobatをダウンロードするとAdobe Acrobat Proの「64bit版」がインストールされるのですが、この電子署名が可能なのは「32bit版」だったのです。

したがってあえて「32bit版」をググってインストールする必要があったのでした

ここはデジタル庁もAdobeの進化についていってほしいところです・・・。

やっとの思いで各書類に電子署名してシステムに添付。

そして「法人設立ワンストップサービス」上で、言われるがままにマイナンバーカードで電子署名※します。

※申請書に申請者の印鑑を押印するイメージ。前述の定款等への電子署名はそれぞれの書類に作成者の印鑑を押印するイメージです。

ここまでの手続きが終わればあとは申請だけです。

ここまで乗り越えてきた苦難が嘘のような、簡単なクリック1回で申請されてしまうので要注意です。(そしてこの申請の日が会社の設立日になります。)

登記申請について別途郵送が必要な書類があった

なお、登記申請書類の中で電子ではなく紙提出のものがあったので、管轄法務局の商業登記部門に郵送しました。送り方は特に何も指示がなかったので、追跡可能なようにレターパックライトで、行方不明にならないように宛先のところに受付番号を記載して送ってみました。

結果として無事だったようです。

オンラインなのに電子では完結しないという・・・。 まあ後述する年金事務所よりはるかにマシですが。

ちなみに送ったのは「登録免許税の減免証明書」(産業競争力強化法に基づくもの)と「印鑑届書+代表者の個人の印鑑証明書」です。前者は提出必須、後者については必須ではないのですが、この手続をしないと法人の印鑑証明書を発行できないので、しれっと同封しました。

※登録免許税の減免については下記記事の「対象となる補助金がないかどうか確認する」に記載しています。

ご参考
【キャッシュフロー試算・資金関連】合同会社設立|一人社長会社の作り方 ※この記事は「合同会社」かつ「役職員が一人の会社(社長だけ)」の会社設立を前提にしています。 2023年1月、合同会社を設立しました。 設立までの期間は約3か月でし...

STEP5 申請状況の確認

さまざまな役所宛への申請を一括して行うサイトですが、まずは設立登記が終わらないと法人自体ができない、ということで設立登記手続が先行されます。

申請後の状況

とりあえず処理中であるというステータスはサイトで確認可能なのですが、「いつ終わる予定か」がわからないのでひたすら待ちです。

ただ、申請された旨、登録免許税を納付すべき旨(電子納付)など、都度状況はメールされてきます。

なお、登記については管轄の法務局が登記の完了予定日をネットにあげていたりするので、それが参考になります。

私の場合は、登記は申請日を入れて6営業日かかりました。

そして7営業日目に税務署への各申請が完了。すべての申請が完了したのは11営業日目でした。

社会保険関係は別途紙で出し直した!

社会保険(年金事務所宛「健康保険・厚生年金保険新規適用届」)については、ワンストップサービスで手続できるとの触れ込みでしたが、結局紙で出しなおしました。

申請して7営業日目、無事登記も終わった翌営業日に年金事務所(の事務センター)から電話。

年金事務所「ワンストップサービスで新規適用届を出されてますけど、一緒に資格取得届が必要なんですよね~資格取得届はワンストップサービスからは出せませんので、紙で出していただいてそのあと新規適用届出をワンストップで出し直してください。」

2つ必要な届出書類があるのにワンストップサービスで提出できるのは1つだけ、と・・・ほう。

年金事務所「あ、それとワンストップで出された新規適用届も必要事項が埋まっていないので、直してから出してもらえますか?」

えー・・・ワンストップサービスで言われた通りに入力しただけなんですが・・・

いったいなぜこんなことになっているのか、というのを一応調べてみました。

紙で出せと言われた「資格取得届」e-Govではオンライン申請可能らしいのですが、事業所整理番号欄が空欄だと電子申請は不可能な仕様であるとのこと。

そしてこの事業所整理番号は新規設立法人には当然付番されていないので、資格取得届はオンラインでは申請不可能、法人設立ワンストップサービスでは申請する仕組みすらない。

ただ、新規適用届と資格取得届はセットで提出が必要なので、まずオンラインで申請できない資格取得届を先に紙で出してくれ、ということのようですね・・・

ワンストップサービスで出すことのできる新規適用届も入力欄が中途半端なので、結局新規適用届と資格取得届、どちらも紙で出しました。

年金事務所のこの姿勢、やばいですね。自分たちで仕様を変更するのではなく利用者側に面倒を強いるとは・・・。

なお、健保には別途届出は不要ですが、任意継続の終了は健保に別途届出をする必要がありました。
任意継続をしている方は要注意です。

「法人設立ワンストップサービス」を使ってみた感想

別々の役所宛ての似たような書類を一括で申請できるようにした点は画期的だと思います。

ただ、お役所が本気で開発しているのにこんな感じなの?というか、freeeとかMoney forward、あるいは弥生会計が同じシステムを作ったらもう少し使い勝手がいいものができるのでは?というのが率直な感想です。

様々なケースに対応しなければならないので仕組みが複雑だったり、説明がわかりにくくなるのはある程度は仕方がないのですが、「よりわかりやすくしよう」という心意気を全く感じないのです。猫も杓子も会社を気軽に作られたら困るからあえてハードルを上げているのかしら?あるいは士業を保護している?

正直なところ、税務署が、法務局を経由する手続の仕組みを導入することで手続の漏れと誤りを防ぐために作ったシステムなのではないか??という感想を持ちましたが・・・。税金関連のお役所関連の書類はびっくりするほどスムーズに手続できたので。

現状でも別々に書類を作成して各役所に提出するよりは申請側としてもマシなのかもしれません。

それにしてもこのような「まともに動けばとっても便利なシステム」については、かつてのCocoaのように多額の開発コストが中抜きされて末端のイマイチな業者が手を動かしているのでは?と疑わせるようなものではなく、民間から一定の支持がある、その分野でイケてる業者(この場合はfreeeとかMoney forward、あるいは弥生会計になりますが)のコンペ形式にして設計してほしいですね。

星をつけるなら現状では5つ中2~3というところでしょうか。

縦割りお役所のシステムにしては試み自体は評価できますので、もっとわかりやすく使いやすい、かつ役所間でレベル感の差異がないシステムを望みます。

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